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外資による日本の森林・土地取得、水問題 2012年の動き(4) ※8月~9月
2012年8月~9月の報道をまとめました。

2010年、2011年、2012年7月以前と10月以降のまとめ、問い合わせ結果、関連リンクについては、こちらをご覧ください。


国土交通省、平成24年度「日本の水資源」を発表[ 2012/08/15 ]
http://water-news.info/2991.html


毎日:水源地:買収問題 水資源条例、地域案告示 18市町53カ所、28日まで縦覧期間−−北海道 2012年08月16日 北海道朝刊
http://mainichi.jp/area/hokkaido/news/20120816ddr041010003000c.html
 外資などによる水源地の買収が相次いでいる問題で、北海道は15日、売買の事前届け出を義務づける初の「水資源保全地域」に、18市町53地域(地表水23カ所、地下水30カ所)を指定する案を告示した。(22面に地域名一覧)

 振興局別では▽後志21カ所▽胆振12カ所▽石狩8カ所▽渡島、十勝各4カ所▽上川2カ所▽空知、釧路各1カ所。市町別では、ニセコ町とむかわ町がそれぞれ11カ所で最多。石狩市7カ所、黒松内町5カ所と続いた。

 28日までが縦覧期間で、該当地域の住民や土地所有者などは道知事に意見書を提出できる。道は意見書を踏まえて、9月上旬にも正式に地域指定を告示。10月以降に保全地域内の土地を売買する場合、売り主が売却先などを契約3カ月前までに届け出なければならない。

 道は外資の買収を監視するため、道水資源保全条例を4月に施行していた。今年度中に2回目の地域指定を行う方針。【円谷美晶】


北海道、水資源保全地域に53の地域を指定 10月1日から施行[ 2012/08/20 ]
http://water-news.info/2999.html


福井新聞:ダム水源の森林売却へ外資も接触か 地権者は公的機関買い上げ望む
(2012年9月4日午前7時05分)
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/36696.html

福井県外地権者が売却を検討している桝谷ダム周囲の森林。外国資本とみられる団体の接触もあった=福井県南越前町桝谷


 福井県の越前市や鯖江市など3市2町に、水道水などを供給する桝谷ダム(南越前町桝谷)の水源地となっている広範な森林を、県外地権者が売却する意向であることが3日分かった。外国資本とみられる団体からも接触があったという。地権者は公的機関など安定的な所有者を望んでいるが、県はあっせんや買い上げを含めた新しい森林保全制度を検討中の段階で、先行きは不透明だ。

 外国資本による森林買収が全国各地で問題化して以降、県内で大規模な水源地売買が表面化するのは初めて。林野庁の調査では、昨年度だけで北海道など4道県で14件157ヘクタールの森林が、海外の法人や個人に買収されている。

 今回売却が検討されているのは、ダム周囲の数百ヘクタールの森林。700~800ヘクタールに及ぶとの情報もある。多くが水源涵養保全林に指定され、伐採や開発が制限されているが、売買は自由にできる。ダムの水は対象の森林からの分が「かなりの部分を占める」(林業関係者)という。

 この森林は、昭和40年代後半に県外の資産家が取得。転売を経て現在、近県の親族5人が共同で所有している。ここ数年売却を模索しており、南越前町内の林業関係者にも昨年、売却について相談している。

 窓口となっている地権者男性は取材に対し、東京や大阪の企業など数団体から購入の話が寄せられているとし「言葉が片言で、外国資本という印象を持ったものもあった」としている。

 交渉が継続中の団体について所有者は「少し調べただけでは何をしている団体か分からず、お世話になった地元に、後々迷惑はかけられない」と、現時点では売却に否定的。一方で「経済的な事情もあり、できるだけ早く売却したい」とも話した。

 県は今年5月以降、地権者と連絡を取り、適切に管理できる売却先を求めている。対応について現時点で具体的な動きはなく「新しい森林保全制度の条例化を目指しており、その中で公有林化や、買い主のあっせんも含めた方策を検討したい」としている。

 県森林組合連合会は県とも連絡をとり、総合商社を通し、大手企業に購入を働きかけている。しかし「木材価格や地価が下落しており厳しい状況」という。町内の林業関係者は「対象の森林は杉、広葉樹とも樹齢が若く、水資源以外の目的で民間企業が取得するのは難しいのではないか」と指摘している。


日経ビジネスONLINE:外資買収に見る、日本の甘過ぎる土地制度 2012年9月5日(水)
「消えた土地所有者」の解明を急げ
平野秀樹(東京財団上席研究員) 、 吉原祥子(東京財団研究員)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120904/236350/?rt=nocnt
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1015
尖閣諸島や竹島など隣国との国境問題が噴出して、日本が国土や国境に対する意識が薄かった現実が露呈している。なぜ、日本は多くの「国土問題」を周辺諸国から起こされてしまうのか。「日本の国土」問題に詳しい研究者がリポートする。
 「外資が森林を買収すると、何が問題となるのか? 外資であることか、実態がわからないことか、それともルールがないことか?」

 先日、ある新聞社の論説委員から質問を受けた。

 外資の森林買収が社会的関心を集めるようになって約3年。ここに至る各界のリアクションを辿っていくと、問題の所在が透けて見えてくる。

 自治体からの国への意見書は全国から届き、これまでおよそ100件に上っている。「もっと規制強化を」という声だ。2011年、世論の高まりを受け、国はあらゆる森林売買の「事後報告」を義務づける改正森林法を制定した。だが、これで十分というわけではなかった。

 しびれを切らしたのか、2012年以降、北海道と埼玉県、群馬県が水源地域の土地売買の事前届出を義務づける条例を成立させた(注1)。あと10県以上はこれに続くと見られる。市町村でも地下水保全条例の制定が続いている。6月には長野県佐久市、小諸市、立科町などが地下水を「公水」と位置づける条例を相次いで成立させた。

 一方、土地売買に関連して、石原慎太郎・東京都知事の突然の買い上げ発言をきっかけに、尖閣諸島の所有権問題が注目を集めている。一連の報道で、「わが国では安全保障の要所である国境離島が実は個人の所有であること」や「たとえ相手が政府であろうと土地の売買が所有者個人の意向に大きく左右されること」が、多くの人々の知るところとなった。

 こうした森・水・土地をめぐる動きの根底にある問題は何なのか。「外資の森林買収」という事象を契機に我々が考えるべき根本課題は何なのか。改めて整理してみたい。



無人の奥山が国際商品に

 2011年11月の北海道北部。林道さえ入っていない奥地の天然林200ヘクタールを求め、不動産関係者が現地を訪れた。

「この辺鄙な地を選んだのは、水源地の売買規制が始まった道央・道南を避けるためだ。不在村地主の山を中心に購入したい」

 仲介したこの業者は、道央の山を中国資本に売却した実績を持つ。

 狙われた山はかつて70数戸の集落があったが、1962(昭和37)年の台風災害で全戸離村し、以来、無人になっている奥山だ。林業が成り立つ場所ではない。同行した関係者が、目的不明の買収話を不審に思って役場に連絡したことにより、その地は地元篤志家が私財を投じて購入することで決着した。

注1:2012年3月に北海道県と埼玉県で、5月に群馬県でそれぞれ成立した。同様の条例の検討や対策協議会設置が、山形県、福井県、茨城県、山梨県、長野県、静岡県、岐阜県、宮崎県、鹿児島県などでも進んでいる。



土地の所有実態が追えない

なぜ役場が土地所有の実態を正確に把握できないのか。そこにこの国の特異性がある。

日本の土地制度は、

(1)地籍調査(一筆ごとの面積、境界、所有者などの確定)が未だ50%しか完了していない
(2)不動産登記簿の仕組みが旧態依然で、土地売買届出などの捕捉率も不明
(3)農地以外の売買規制はなく、利用規制も緩く、国境離島、防衛施設周辺など、安全保障上重要なエリアの土地売買・利用にかかる法整備も不十分
である一方、
(4)土地は占有者のもので「時効取得」(民法第162条)もある*2。
(5)土地所有権(私権)が現象的には行政に対抗し得るほど強い*3。

という点に特徴がある。「土地は公のもの」という理解が社会の基底にある先進諸外国では類を見ないものだ。中でも(2)における行政基盤、行政精度の問題は大きい。

現在、我が国の土地情報は不動産登記簿(法務省)のほか、土地売買届出(国土交通省)、固定資産課税台帳(総務省)、外為法に基づく取引報告(財務省)、さらに森林調査簿(林野庁)や農地基本台帳(農林水産省)など、目的別に作成・管理されている。だが、その内容や精度はばらばらで、国土の所有・利用についての情報を国が一元的に把握できるシステムは整っていない。

通常、土地を相続すれば登記簿の名義変更を行うが、変更手続きのコストの方が高くつくケース*4では、差し迫った必要性がなければ元の名義のまま放置されることも少なくない。そもそも不動産登記(権利登記)は義務ではなく、登記後に転居した場合の住所変更も通知義務はない。

国土利用計画法による届出情報も万全ではない。売買契約締結後、2週間以内に届出することを義務づけているが、実際の取引現場での認識は低い。国はその全国情報を毎年集計し公表しているものの、届出の捕捉率は把握できていない。この届出業務が自治体の仕事(自治事務)であるからだ。

海外からの投資という面で見ると、外資による投機的な土地買収は全国で約3700ヘクタール(2007年度〜2010年度)である*5。ただ、外為 法で規定されたこの報告ルールも、その捕捉率は不明だ。しかも外為法の体系では、非居住者(外国に住む人)が他の非居住者から不動産を取得した場合は、報 告義務の対象外である(外国為替の取引等に関する省令第5条第2項10)。

国交省・農水省は外資による森林買収情報を集めており、これまで全国で約800ヘクタールが買収されたと公表した。定義がそれぞれ異なるため、数値は一致しないが、北海道は独自調査を進めており、道内で57件、1039ヘクタールが外資に買収されたと公表している。今後、こうした物件がさらに外資へ転売 された場合、所有者情報は追えなくなるだろう。

国土の所有実態を行政が把握しきれない――。「外資の森林買収」で露呈した根本問題はここにある。



固定資産税の不納欠損処理

全国で過疎化が進みゆく中、今後は土地所有者が村外、県外、さらに国外在住というケースも増えていくだろう。鳥根県の旧匹見町(人口約1400人)では、固定資産税の納税義務者の所在が全国26都府県にわたる*6。このうち、林地の約7%(面積比率)、農地の約3%(同)は納税義務者の居所が不明と見られる。かつては当たり前だった「土地所有者=在村住民=管理者」や「納税義務者=在村住民」という図式が成り立たなくなってきている。

固定資産課税台帳は登記簿情報を元に更新されていくが、前述のとおり、その登記簿が十分ではない。所有権者の転居や金融商品としてグローバル化していくことを想定した設計にもなっていない。制度にひずみが出はじめている。

不思議なのは、こうした時代の変化と制度上の問題があるにもかかわらず、固定資産税の徴税が表立って大きな問題にならないことだ。総務省によると固定資 産税を含む市町村税の徴税率は93.3%(2010年度)。固定資産税は市町村税収の43.7%(同)を占めるが、土地所有者の不在化、不明化によって、 課税・徴税に支障が出ていないのだろうか。

探っていくと、徴税率の高さの背景には、実は「不納欠損処理」という数字のマジックがあることがわかる。地方税法では、所有者の居所不明などで徴税ができなくなった場合、徴税が無理だとわかった時点での即時欠損処理(第15条の7第5項)や5年の時効(第18条)などによって消滅させる仕組みがある。本来なら滞納繰越額は毎年雪だるま式に膨らみ続けるはずだが、この不納欠損処理によって滞納事案が「消滅」していく。つまり、徴税率計算の際の分母(課税対象)から滞納事案の大部分を消すことで、計算上の高い徴税率を保っている。

市町村税総額の中の「不納欠損処理」は、全国で1103億円(2010年度)。全体の0.5%程度で、一見少ないようにも見える。だが、徴税すべき対象から外した「1年間」の額がそれである。固定資産税は累積していく。税がとれずに債権放棄した額は、いわば再生産されていく負債である。

加速していく土地所有者の不明化は納税義務者の不明化でもある。不納欠損処理によって、徴税不可能な事案を「消滅」させることで、その問題もまた表面上見えなくしている。一見高い徴税率の陰で、土地所有者の不明化により、地方財源の重要な柱である固定資産税の税収が漸減していく恐れがあることを我々は直視すべきだろう。

行政基盤や行政精度の劣化を示す事象として「消えた年金」「消えた高齢者」が大きな問題になったが、「消えた土地所有者」は、それらに続く可能性がある。



「消えた土地所有者」こそ日本の危機

今後、日本では団塊の世代が相続する時代を迎えていく。資産価値が低く管理が難しい土地は、子供たちから敬遠される。子供に負担をかけまいと、「相続の前に土地を手放したい」「買ってくれるなら誰でもいい」と苦渋の思いで仲介ブローカーに売却し、その後どう転売されたか、地元では誰も知らない――。そうした事例が、今後じわじわと増えていくだろう。国境の離島や奥山の水源地など、安全保障や国土資源保全上、重要でありながら、人の目や手入れの行き届かない地域が増加していく恐れもある*7。

グローバル化時代の開かれた経済活動の中、国レベル、自治体レベルそれぞれにおいて、土地情報の風通しをよくしていくルールを早急に整える必要がある。

国レベルでは、まず安全保障の観点から国が「重要国土」(防衛施設周辺、国境離島、空港・港湾、水源地など)の指定を行い、対象地域の所有実態の調査や、売買・利用にかかる法整備を行うことである。長崎県五島市は、福江港沖の無人島が不動産会社のホームページで売りに出された問題をきっかけに、市内全52の無人島について所有状況の確認作業を行い、2011年12月、結果を公表した。

国は「重要国土」について、こうした基礎調査を進め、一定の売買・利用規制を講ずるべきである。国益上、とくに金融商品とすべきでない土地については、国有化や公有化のための財政措置も検討すべきであろう*8。

また、民間のインターネット入札などを利用した国公有地の売却が進められているが、日本の土地法制の特異性を再認識する必要がある。収入確保のための拙速な国有地売却など、顔の見えないインターネット入札を無差別に進めていくことには、慎重であるべきだろう。

自治体レベルでは、上記の「重要国土」に準じた保全対象地域(環境、水源、生態系、景観、文化財など)を指定し、所有実態調査と条例による売買・利用ルールの整備を図っていくことが必要だ。

昨今、「当県(当市)では外資による買収事例は確認されておらず、今のところ特段の措置をとる予定はない」という自治体が少なくない。だが、行政が知らないだけではないか。土地売買・所有の実態を行政が十分に把握できていないことこそが問題なのである。

土地所有者の不在化、不明化の問題は、固定資産税の徴税のみならず、防災・治安、地域づくりのための合意形成、公共事業のための用地取得など、日常の 様々な活動に問題が波及していく。北海道のある自治体は、外資が所有する水源地2カ所を公有化するため、一昨年秋から交渉を行っているが、未だ決着していない。地域の「守るべきところ」「守るべきこと」を明確化し、問題を未然に防ぐことが何より重要だ。

諸外国を見ると、欧米では厳格な利用規制などによって個人の土地所有権に一定の制約を課している。ドイツのB-planが最もわかりやすい。英国も土地 所有者は保有権(hold)は持つものの、それは土地利用権に近く最終処分権までは持たない。フランスでは公的機関による強い先買権が存在する。

海外からの投資という観点では、米国では農業外国投資開示法(1978年制定)や外国投資国家安全保障法(2007年制定)など、国の重要なインフラや 基幹産業に対する投資について、政府がいつでも情報把握や公的介入ができる制度を整えている。オーストラリア、ニュージーランドを含めた近隣アジア太平洋14カ国において、土地売買における外資規制が皆無なのは日本だけである。


*   *   *

こうした現行制度の無防備さを直視せず、「外資による森林買収事例はまだごくわずかだ」「規制強化はグローバル時代に逆行するものだ」と不作為を続ければ、自らの国土でありながら、行政が所有者を把握できず、土地の適正利用も公平な徴税もままならないことになろう。大きな負の遺産を次世代に渡すことになる。

土地とは、暮らしの土台であり、生産基盤であり、国の主権を行使すべき国土そのものである。経済のグローバル化と地域の高齢化・人口減少が同時進行する時代だからこそ、開かれた経済活動の前提として国内法制度をしっかりと整え、「守るべきところは守る」ことが不可欠であろう。

土地所有者の不明化対策に乗り出し、制度の見直見直しと底上げを図ることが急務である。


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*1 2012年3月に北海道県と埼玉県で、5月に群馬県でそれぞれ成立した。同様の条例の検討や対策協議会設置が、山形県、福井県、茨城県、山梨県、長野県、静岡県、岐阜県、宮崎県、鹿児島県などでも進んでいる。
*2 民法第162条は、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有することによって(占有を始めた時に善意・無過失であった場合は10年で)、所有権を時効により取得したと主張できると定めている。
*3 首都圏の外環道(東京外かく環状道路)は、計画樹立以来40年以上経過しているが、未だ一部の地権者の合意が得られず完成していない。成田空港も、地権者の合意が得られず、滑走路が1本のままである。
*4 山林価格は実勢で1ヘクタール20万円以下になるケースも少なくない。評価額が免税点30万円に届かなければ固定資産税も請求されないため、山林所有者の所有意識は弱まる一方だ。
*5 外為法に基づく非居住者による本邦不動産の取得に関する報告実績(財務省資料、2011年2月)。
*6 島根県中山間地域研究センター「中山間地域の現状・課題と今後の展開戦略(抄)」(2006年)。国土交通省は、森林所有者数約324万人のうち、所在の把握が難しい所有者を約16万人(約5%)と推計している(国土交通省「農地・森林の不在村所有者に対するインターネットアンケート調査結果概要」2012年)。
*7 国土交通省は、日本の国土のうち、人が居住する地域は全体の約48%、1800万ヘクタール(2010年)だが、2050年には国土の約4割、約1400万ヘクタールまで減少すると予想している(国土交通省国土計画局「国土の長期展望に向けた方 向性について(2010年12月)」)。
*8 東京財団「国土資源保全プロジェクト」提言書。



「日経ビジネスONLINE」(2012年9月5日掲載記事)より転載


これが言いたい:外資買収問題の背景は根が深い=東京財団研究員・吉原祥子
毎日新聞 2012年09月20日 東京朝刊
http://mainichi.jp/opinion/news/20120920ddm004070007000c.html
 ◇土地制度の抜本立て直しを

 「外資による森林買収」の実態が初めて明らかになったのは2010年6月、北海道議会においてだった。以来、国の規制を求める声は急速に高まり、自治体等から国へ提出された意見書はこれまでおよそ100件に上る。

 今春、北海道は水源地の土地売買の事前届け出制を義務づけ、埼玉、群馬両県も同様の条例を創設した。茨城、福井、長野、山形各県などもこれに続く構えだ。

 「本来なら国が法整備すべき話。国が動かないので、まずは条例でできる範囲の対応をするしかない」。自治体関係者はそう嘆くが、国の反応は鈍い。

 自治体が危機感を抱く背景には日本の土地制度の特異性がある。

 現在、「土地」の情報は不動産登記簿のほか、固定資産課税台帳、国土利用計画法(国土法)に基づく土地売買届け出など目的別に作成・管理されている。だが、精度は低くその内容はばらばらで、国土の所有に関する情報を行政が一元的に把握できるシステムはない。

    *

 一方で、個人の土地所有権は極めて強い。農地以外に売買規制はなく、利用規制もゆるい。国境離島、防衛施設周辺など安全保障上重要な区域の土地売買、利用についても法整備は進んでいない。

 外資による一連の森林買収は、グローバル経済の拡大と地域社会の縮小という時代変化を示す象徴的な現象と言える。土地・水・森が国を超えた投資の対象になる一方、人口減少と高齢化により、そうした地域資源の所有者や担い手が地元不在になってきている。

 国土の約4割を占める私有林のうち、いまや4分の1は不在地主が所有する。北海道では55%が不在地主だ。今後、相続の増加やグローバル経済の拡大により所有者が村外、県外、さらには国外在住というケースも増えていくだろう。「土地所有者=在村地主=管理者」という図式はますます成り立ちにくくなる。

 この問題は「外資が買収」という現象面ばかりがセンセーショナルに取り上げられがちだ。だが、問題の核心は「こうした時代変化に制度が対応できておらず、国土の売買実態や所有者情報を行政が正確に把握しきれない」点にある。

 北海道は一昨年、森林保有企業2141社へ調査票を郵送したが、当初4割以上が宛先不明で返送されてきた。

 土地所有者の不明化は道路など公共インフラ整備のための用地買収、土地の集約化、災害復旧、治安など日常のさまざまな活動に影を落とす。固定資産税の納税義務者の不明化にもつながる。場所によっては国の安全保障にもかかわる。「消えた土地所有者」問題は静かに、しかし確実に行政コストを高める。

    *

 国はこうした時代の変化を直視し、現行制度の見直しを早急に行う必要がある。例えば、現在の不動産登記制度では、登記時しか住所が記載されない。また、所有者変更(物故、転売等)があっても、そのまま放置されれば自治体はたどれない。そもそも権利登記は義務ではない。土地所有者が多様化していくことを想定した制度設計が求められよう。

 土地売買については例えば、国土法の「監視区域」等の規定を安全保障や資源保全に広義に適用するなど、一定の規制強化も必要だろう。土地所有の匿名化は避けるべきだ。現行の土地法制の課題を考えれば、顔の見えないインターネット入札による国公有地の拙速な売却についても慎重であるべきだ。

 「国土の保全」と「開かれた経済活動」を両立させるため、まずは足元の土地制度の改革が急務である。

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 ■人物略歴

 ◇よしはら・しょうこ

 米国際教育協会バンコク支部等を経て、98年より東京財団勤務。国土資源保全プロジェクト等を担当。

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by doumin | 2012-09-30 23:13 | 水問題と国土(外資による取得) | Comments(0)
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